菱の實(み)とるは誰が子ぞや
くろかみ風にみだれたる
菱の實とるは誰が子ぞや
ひとり浮びて古池(ふるいけ)に
鄙歌(ひなうた)のふしおもしろく
君なほざりにうたふめり
聲(こゑ)夢ごこちほそきとき
ききまどふこそをかしけれ
かごはみてりや秋深く
實(み)はさばかりにおほからじ
菱の葉のみは朽つれども
げに菱の實はおほからじ
かごはみたずや光なき
日は暮れてゆく短さよ
なほなげかじなうらわかみ
なさけにもゆる君ならば
君や菱賣(う)る影清く
はしる市路(いちぢ)のゆふまぐれ
そのすがたをば憐(あはれ)みて
ああなど誰かつらからむ
君がゑまひの花かげに
ふれなばおちむ實こそあれ
うるはしとおもふ實のひとつ
いつかこの身にこぼれけむ
旅ゆき迷ふわづらひも
しばしぞ今は忘らるる
あやしむなかれわれはただ
なさけのかげを慕ふのみ
さながらわれは若櫨(わかはじ)の
枝に來て鳴く小鳥(ことり)のみ
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